2025年大刀剣市④ 出品 重要刀装具 銘:信家 車透唐草図鐔
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- 10月30日
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前回に続いて、11月1日・2日に開催される大刀剣市に出品する刀剣や刀装具の特集をします。
本記事では、大ぶりで無櫃の希少な放れ銘信家の鐔を紹介したいと思います。桃山時代から江戸初期にかけて活躍した「信家」は「塊」としての存在感や鉄味が魅力的で、侍の美学を象徴しています。
放れ銘信家はどんな人物だったのだろうか?
信家の鐔は、名品と呼ばれたりして、誰もが知っているカテゴリーになっています。ところが、実際に信家は何人いて、どこの出身で、どんな人生を歩んだ鐔工だったのだろうか?多くの先人が研究を重ねていますが、時代や文化の傾向を踏まえた研究はされていませんでした。大正十五年(1926)に秋山久作翁が註をつけられた「中村覚太夫信家鐔集」が有名です。そこには、甲冑銘、太字銘、左傾銘、詰り銘、放れ銘、鏨入銘、三信家、7種類に分類されました。これだけの銘は本当にあったのだろうか?昭和33年〜34年(1958~1959)までに発表された勝谷俊一氏の論文「信家の新研究」は、信家鐔の研究としては、ほぼ現在に繋がる決定的なものでした。現在、すっかり定着している放れ銘と太字銘ですが、いったいどんな経緯で、この呼ばれ方になったのでしょうか?
信家の美意識と芸術
「つまらない訳ではないけれど、黒く、分厚く、重たい塊のどこが良いのかわからない。」もしかすると、それは率直な感想なのかもしれません。信家の鐔は、鉄一色で、それにかんたんな毛彫や打ち込み、時に透かしが施されているだけの、いたってシンプルで素朴なものです。そこには、飾りはありません。理解しやすい動物、人物、花鳥を色彩豊かいに表現したものとは、ほど遠い感覚です。信家は、ただの鐔工ではなく「武士の精神と美」を「塊」で表現した作家です。
この車透鐔は、味わい深い長方形で、耳から切羽台にかけて肉を落とした作り込みです。土手耳にして、車としての写実性を増やしています。さらに耳が丸く見えるほど焼き手を強くかけていて、より一層、力強い作品に仕上げています。耳際の平地に唐草を毛彫で表現していますが、地紋、菊花や輪違の刻印は見当たりません。無櫃で格調の高い鐔でありながらも、力強く素晴らしい造形です。大きさもあり、保存状態も完璧で好ましく、まさに放れ銘信家の傑作です。これと同じ図と手法の鐔が法安にもあり、尾張の清洲で近い距離に住み、お互いが影響しあって仕事をしていたことが想像できます。昭和辛丑年 (1961) 仲春の、日野松庵の箱書きがあり、改定後の「鐔観照記」に所載されています。





鑑定ポイントはこの書籍に♡
0月1日に著者伊藤満の「信家」の書籍が発売されました。この本には、信家を知るための全てが惜しみなく書かれています。伊藤満による長年の研究に基づき、これまで知られていなかった「信家」を含め、有名な作品を網羅し順序立てて紹介しています。目まぐるしく変化した桃山江戸初期の歴史と文化を背景に、放れ銘と太字銘の特徴や銘の変遷、それぞれの美意識を解説することで、信家研究の新たな方向性を提案しています。もちろん鑑定ポイントも盛りだくさんに含まれています。愛読書にしていただけましたら幸いです。
書籍のご案内
• 書名:『信家』
• 著者:伊藤 満
• 発行:ギャラリー陽々
• 発売日:2025年10月1日
• 販売価格:27,500円→26,000円(2025年12月31日)まで。
• 英語訳 販売価格:17,500円→15,000円(2025年12月31日)まで。
ついに「信家」のコメント付き英訳版も完成しました!お得なセット価格をご用意しています。2025大刀剣市の会場で販売しますので、ぜひこの機会にご購入ください。
結びに
手のなかにずっしりと存在感のある信家の鐔は、まさに塊の美です。特にこのような大きなサイズの信家は珍しいと思います。ぜひ大刀剣市にお越しいただき、ご覧ください。次回は「2025年大刀剣市:ギャラリー陽々・出展作品のご紹介⑤」をお届けいたします。Stay Tosogu & Sword Minded : )
参考文献:
「信家・NOBUIE」伊藤満
「第67回重要刀装具図譜」日本美術刀剣保存協会
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