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2025年大刀剣市⑤出品 重要刀装具 銘:信家 梅花唐草図鐔 柴田果旧蔵 信家鐔集所載

前回に続いて、11月1日・2日に開催される大刀剣市に出品する刀剣や刀装具の特集をします。

 

本記事では、大ぶりで無櫃の希少な太字銘信家の鐔を紹介したいと思います。桃山時代から江戸初期にかけて活躍した「信家」は「塊」としての存在感や鉄味が魅力的で、侍の美学を象徴しています。



太字銘信家はどんな人物だったのだろうか?


信家の鐔は、名品と呼ばれたりして、誰もが知っているカテゴリーになっています。ところが、実際に信家はなぜ放れ銘と太字銘があって、どのようなことで、その名称が使われたのかは、忘れられています。信家は何人いて、どこの出身で、どんな人生を歩んだ鐔工だったのだろうか?多くの先人が研究を重ねていますが、時代や文化の傾向を踏まえた研究はされていませんでした。しかし、時代や世の中の流行と照らし合わせて思考すると、やはり、この作家たちの人生においても、有名な大名の存在が見えてきます。太字銘には、複数の銘のスタイルがあります。それから、放れ銘にも太字銘信家にも、キリシタンの図があることは良く知られています。そのことから、太字銘信家が、どの大名について作品を製作していたかも明確にわかってきたのです。昭和33年〜34年(1958~1959)までに発表された勝谷俊一氏の論文「信家の新研究」は、信家鐔の研究としては、ほぼ現在に繋がる決定的なものでした。現在、すっかり定着している放れ銘と太字銘ですが、いったいどんな経緯で、太字銘は複数の銘を切ることになったのでしょうか?

 


太字銘信家の美意識と芸術


槌目地、鉄骨、焼き手、打ち込み、地紋や磨き地という言葉を耳にします。太字銘の作品を手に取り、観れば観るほど、引き込まれてくる魅力があります。槌目と毛彫は、肉置きの一部となり、とてもシンプルではありますが、まさに自己を問うような悟りの世界です。大胆な桃山時代特有の流行がみられる太字銘信家の作品にも、どうしたわけか磨き地の作品があります。それは、誰か別人が作ったからでしょうか?中には、腐らしという技法で鐔の表面を荒らした作品があります。その技法は、法安の鐔に見られるもの似ています。どことなく、法安と山吉の作品に信家の鐔が接点を感じるところがありませんか?信家はいたってシンプルで素朴な鐔です。そこには、飾りはありません。理解しやすい動物、人物、花鳥を色彩豊かいに表現したものとは、ほど遠い感覚です。信家は、ただの鐔工ではなく「武士の精神と美」を「塊」で表現した作家です。みなさんは、放れ銘と太字銘では、どちらが好きですか?それとも、黒く、分厚く、重たい塊の鉄鐔には魅力を感じませんか?


この梅花唐草図鐔は、木瓜形で整ってはいますが、動きが感じられます。打ち返し耳で、平地は槌目で仕上げ、地紋を打ってから、表には唐草、裏には梅花と花籠の毛彫りを施しています。その後、焼き手をかけています。表側は優しい雰囲気ですが、裏は焼き手が強くかかり力強い仕上がりになっています。深遠な輝きのある黒い鉄と確かな造形は観る者の心を動かします。無櫃でもあり、得難い名作です。「信家鐔集」の第115図として掲載されており、「小夜左庵蔵」と彫った唐木の箱に納められていることから戦前の秋田の素封家で刀匠でもあった柴田果の所蔵品であったことがわかります。

 


重要刀装具太字銘信家

重要刀装具太字銘信家

重要刀装具太字信家
重要刀剣図譜太字銘信家
柴田果の箱書小夜左庵
小夜左庵
重要図譜太字銘信家
重要刀剣図譜太字銘信家
信家鐔集 太字銘信家


鑑定ポイントはこの書籍に

  

10月1日に著者伊藤満の「信家」の書籍が発売されました。この本には、信家を知るための全てが惜しみなく書かれています。伊藤満による長年の研究に基づき、これまで知られていなかった「信家」を含め、有名な作品を網羅し順序立てて紹介しています。目まぐるしく変化した桃山江戸初期の歴史と文化を背景に、放れ銘と太字銘の特徴や銘の変遷、それぞれの美意識を解説することで、信家研究の新たな方向性を提案しています。もちろん鑑定ポイントも盛りだくさんに含まれています。愛読書にしていただけましたら幸いです。


 

書籍のご案内

•    書名:『信家』

•    著者:伊藤 満

•    発行:ギャラリー陽々

•    発売日:2025年10月1日

•    販売価格:27,500円→26,000円(2025年12月31日)まで。

•    英語訳 販売価格:17,500円→15,000円(2025年12月31日)まで。



ついに「信家」のコメント付き英訳版も完成しました!お得なセット価格をご用意しています。2025大刀剣市の会場で販売しますので、ぜひこの機会にご購入ください。

 





結びに


手のなかにずっしりと存在感のある信家の鐔は、まさに塊の美です。わくわくするような動きのある梅花と唐草に花籠を添えた鐔は、柴田果もさぞかし魅了され、彼のミューズにもなったに違いありません。特にこのような大きなサイズで無櫃の信家は珍しいです。ぜひ大刀剣市にお越しいただき、塊の美をご覧ください。Stay Tosogu & Sword Minded : )

 


参考文献:

信家・NOBUIE」伊藤満



「第67回重要刀装具図譜」日本美術刀剣保存協会


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