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時代拵の研究 ①

日本美術刀剣保存協会山梨支部は、2ヶ月に1回の勉強会を開催しています。この例会では、刀剣入札鑑定と刀装具のレクチャーを受けることができます。ご興味のある方は、ご参加いただけます。

10月5日の刀装具レクチャーは伊藤満による「時代拵」でした。本記事で、みなさんにご紹介したいと思います。


刀装具のレクチャーをする伊藤満


1. 時代拵の研究はいつからなのか?


まずは先人の研究書物から、時代拵の時代背景を考えてみましょう。それから、近年の重要な研究発表にも触れたいと思います。


日本古文化研究所報告第八 法隆寺西円堂奉納武器:末永雅夫 昭和13年


末永雅夫氏によって昭和13年(1938)に書かれたものです。これには、法隆寺西円堂に残された武具の調査報告が載っています。鞘に奉納年月日を記したものがあり、その時代の打刀の様式を知ることができ、参考になります。


日本古文化研究所報告第八 
西円堂の外観 

奉納品陳列
奉納年月日が記載された鞘
奉納銘が明記された拵
奉納銘の鞘を拡大したところ


刀装具の起源: 笹野大行 昭和54年(1979)


笹野先生が打刀拵や刀装具の発生と展開を文献や絵画資料など違った方面から考察した画期的な書籍です。弘安11年(1288)の奥書がある重要文化財「山王霊験記」という絵巻物の一部に長大な打刀を指している人物が描かれていることを発見しています。


「人物の座高からすると、全長で4尺3寸前後、刀身が3尺を超すと考えられる打刀を差しているが、元寇(1274 & 1281)の後、打刀が長大化したことを実証している。そして、腰刀は差し添えているが、打刀の大小の組合わせは、この当時からあったことになる。」と笹野先生は書かれています。


この本は、父がデザインをした最初の書籍でもあり、愛着が湧く一冊です。そして、2009年には、この書籍の英語訳がされています。これからも、世界の刀装具ファンの愛読書でいてほしいです。


刀装具の起源 書籍

「山王霊験記」絵巻物の一部。長大な打刀を指している人物が確認できる。

山王霊験記 絵巻物


打刀拵 小笠原信夫 昭和60年(1985)


東京国立博物館で開催された「特別展観 刀剣外装の美 打刀拵」展の図録です。後に出版された書籍もほぼ同じ内容で、小笠原氏の退館記念の展覧会でもありました。大名家伝来で、所持した人物がわかっている拵が多数出展されました。


打刀拵の特別展図録

鎌倉末〜南北朝(1300)

鎌倉末から南北朝時代の拵

上杉謙信 天文頃(1540) 小尻が平。

上杉謙信の拵

徳川家康 天正 (1580) 小尻が平。

徳川家康の拵

細川三斉 文禄(1595)

細川三斉の拵


放射線炭素年代測定による刀装具の年代測定 Boris Markhasin 令和6年(2024)


マーカーシン氏が、昨年10月に学習院大学で講演された研究発表です。笹野先生旧蔵の打刀拵が、放射線炭素年代測定の結果、鎌倉末期から南北朝期に作られたことがわかり、画期的な内容でした。検査に関する基礎知識も丁寧に説明されていて、私にとってはかなり興味深い講演でした。今後の発展も期待しています。



2. 打刀拵の特徴ー鎌倉末期から江戸時代初期


鎌倉末期から江戸時代初期までの、打刀拵を勉強会の資料と共に紹介します。


勉強会資料

伊藤満 勉強会資料

時代拵 打刀拵の画像

打刀拵4本を紹介

2. 打刀拵の特徴と鑑定のポイント

  1. 時代拵は柄と鞘の比率が1対3.5以上で、江戸期の拵と比べて柄が短い。角小尻と丸小尻がある。

  2. 短刀や脇差の鯉口と栗方の距離は指2本(1.5cm~3cm)程度で江戸期の拵と比べて短い。

  3. 鞘の塗りは、室町期から始まった呂色もあるが、掃き炭を入れて作る黒漆があり、それは室町末期以前である。呂色は経年劣化により、茶色に変化する。

  4. サグリ(返角)の形は下記の通りである。

  5. 柄の形は図の通りである。


柄や返角の形



結びに


本記事では、主に時代拵の特徴に着目していますが、続編では、江戸時代の拵と比べて検証してみたいと思います。時代拵の様式から考えると、鐔、笄、小柄、縁、目貫の形も自然と考えたくなりますね。この時代の拵には古金工の鐔がついていますが、櫃穴はどんな形をしているのだろうか?など、またの機会にみなさんと考察できれば幸いです。さて、次回は「2025年大刀剣市:ギャラリー陽々・出展作品のご紹介」をお届けします。


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